万葉歳時記 一日一葉

「万葉集」から1300年の時を超えた現代短歌・俳句まで、
昔と今を結ぶ日本人のこころの歌を歳時記にしました。

鳥取

#5103 幾山河越えさり行かば寂しけむ恨みとて人草に泣かまし

令和8年9月17日(木) 【旧 8月7日 友引】 白露・鶺鴒鳴

幾山河越えさり行かば寂しけむ恨みとて人草に泣かまし
  ~若山牧水(1885-1928)

 今日9月17日は牧水忌。宮崎県出身の歌人若山牧水が亡くなったのは1928(昭和3)年9月17日、まだ43歳の若さでした。一日一升の酒を飲んでいたというから、死因が肝硬変というのもわかります。旅が大好きで、日本各地に歌碑が残されています。逆にあまりお酒を飲まなかったのでしょうか俳人水原秋桜子が牧水を悼んでこんな句を詠んでします。

酒しらぬ我は旅のみ牧水忌
  ~水原秋桜子(1892-1981)

260917_幾山河越えさり行かば寂しけむ
Photo:若山牧水(1885-1928)

 もうひとつ、9月17日は俳人村上鬼城が亡くなった「鬼城忌」でもあります。村上鬼城は「ホトトギス」に投稿し続けて正岡子規に教えを請い、子規の死後は高浜虚子に師事。飯田蛇笏らと大正前期の「ホトトギス」を支えた人物です。1938(昭和13)年9月17日、胃がんのため逝去。

生きかはり死にかはりして打つ田かな
  ~村上鬼城(1865-1938)

260917_生きかはり死にかはりして打つ田かな
Photo:村上鬼城(1865-1938)

俳句・短歌ランキング  にほんブログ村 ポエムブログ 短歌へ
d ^_^;  よろしければ 1Day 1Click を↑

#5096 梨棗黍に粟つぎ延ふ葛の後も逢はむと葵花咲く

令和8年9月10日(木) 【旧 7月29日 大安】 白露・草露白

子が走る二十世紀梨の低天井
  ~鷹羽狩行(1930-2024)

 秋の味覚、梨がスーパーの果物売り場にけっこうなスペースをとって並んでいました。今年の梨の収穫は上々だとか。先日、妻の知り合いから鳥取産の「新甘泉《しんかんせん》」という品種の梨を送っていただきました。甘みの強い「筑水(赤梨)」とシャリ感のある「おさ二十世紀(青梨)」とをかけ合わせていいとこ取りをしたブランドで、その美味しさは言う事ナシ。ということで、万葉集から、複数のダジャレ(言葉遊び)や掛詞が使われている難解な歌をどうぞ。

260910_子が走る二十世紀梨の低天井
Photo:産直プライム.LAB

梨棗黍に粟つぎ延ふ葛の後も逢はむと葵花咲く
  ~作者不詳 『万葉集』 巻16-3834 雑歌
直訳
梨、棗《なつめ》、黍《きび》に粟《あわ》が次々実り、蔓《つた》を伸ばす葛《くず》のように後にまた逢おうと思うと葵に花が咲くよ。


 「梨棗」は音読みで「り・そう」すなわち「離」「早」と、「黍に粟つぎ」は「君に逢はずに」、「延ふ葛の」は「後も逢はむ」の枕詞、そして「葵」は「逢ふ日」です。すなわち……

意訳
早々と別れてしまってから、梨・黍・粟が次々に実るように季節が移っても、あなたと逢えない。でも延び続ける葛のように後には逢えるよ。葵の花が咲く頃には。


俳句・短歌ランキング  にほんブログ村 ポエムブログ 短歌へ
d ^_^;  よろしければ 1Day 1Click を↑

#5022 黒シャツをまとひて合歓の花かげに誰待つとなく一日暮らす

令和8年6月28日(日) 【旧 5月14日 赤口】 夏至・菖蒲華

黒シャツをまとひて合歓の花かげに誰待つとなく一日暮らす
  ~杉原一司(1926-1950)

 杉原一司は23歳で夭折した鳥取県出身の歌人。盟友の塚本邦雄は杉原を戦後前衛短歌の隠れたリーダーの一人であり、自分の作品のバックボーンを作り上げてくれた恩人であると評しています。

260628_五月雨が合歓に止む時虹かゝる
Photo:ネムノキ(合歓木)の可憐な花 ~photoAC(PGビートルさん)

 さて、この歌に詠まれた植物、合歓《ねむ》の木は北海道を除く日本と中国南部、朝鮮半島、イラン、アフガニスタンに分布する落葉広葉樹です。花の季節は6月から7月。薄紅色の細い糸を集めたような花を咲かせますが、夜は葉が閉じてしまい、眠るように見えたことからその名が付きました。重なりあうような葉の垂れかたが共寝を連想させることもあったようです。「合歓」の漢字を当てたのもそういう意味を含んでいるではないでしょうか。この花を目にするようになればそろそろ梅雨も終わりに近くなってきます。

五月雨が合歓に止む時虹かゝる
  ~細見綾子(1907-1997)

  にほんブログ村 ポエムブログ 短歌へ にほんブログ村
d ^_^;  よろしければ 1Day 1Click を↑

#5001 蟷螂が蟷螂を食べ春先はみどりあふれる子蟷螂がおり

令和8年6月7日(日) 【旧 4月22日 先勝】 芒種・螳螂生

蟷螂が蟷螂を食べ春先はみどりあふれる子蟷螂がおり
  ~佐藤華保理

 二十四節気「芒種」の初候5日間(6月6日~10日)は七十二候の第25候「蟷螂生(かまきりしょうず)」。螳螂が生まれ出る頃。「蟷螂」はかまきりのことですが、詩歌では音読みで「トウロウ(たうらう)」と訓ませる場合も多いようです。佐藤華保理さんの短歌では「かまきり」「トウロウ」どちらの訓みをするのか指定されていませんので読む人の随意で良さそうです。

260607_かまきりも青鬼灯もうまれけり
Photo:ねこちゃんホンポ

 そういえば「蟷螂の斧(とうろうのおの)」という言葉があります。中国の古典『荘子』の中の逸話から、自分の力量を顧みず強大な相手に無謀な抵抗をすることを喩えた故事成句です。実際、たまたま見つけたカマキリを観察しようと近づくとあの斧を拡げて威嚇されたことがありますが、なぜか可愛く感じないこともありません。

かまきりばたりと落ちて斧を忘れず
  ~尾崎放哉(1885-1926)

  にほんブログ村 ポエムブログ 短歌へ にほんブログ村
d ^_^;  よろしければ 1Day 1Click を↑

#4982 山いづる太陽光を拝みたりをだまきの花咲きつづきたり

令和8年5月19日(火) 【旧 4月3日 赤口】 立夏・竹笋生

山いづる太陽光を拝みたりをだまきの花咲きつづきたり
  ~斎藤茂吉(1882-1953)『赤光』

 オダマキはキンポウゲ科の山野草。5月から6月頃に開花します。漢字で「苧環」と表記しますが、これは機織りに使う糸巻のことで、植物のオダマキは花の形がこの道具に似ていることから名付けられています。古くは『伊勢物語』の第32段にこのような歌がありますが、これも植物とは関係なく糸巻きのこと。

いにしへのしづのをだまき繰りかへし昔を今になすよしもがな
  ~在原業平(825-880)『伊勢物語』第32段

昔、糸を紡いで巻き取った苧環からもう一度糸を繰り出すようにあの時のことを今に戻したいものです。

 後年、白拍子の静御前が義経を偲んでこの歌の初句を「しづやしづ」に変え、頼朝の前で舞ったことは『義経記』や『吾妻鏡』にも記された有名なお話です。

260519_薪割るやみやまをだまき萌ゆる辺に
Photo:ミヤマオダマキ ~草木365日 (右下は機織りに使う苧環)

 さて、植物のオダマキにお話を戻すと、開花の時期は5月から6月と、今がちょうど咲き頃。日本では糸車ですが、英語の「コランバイン(Columbine)」は「鳩のような」というラテン語。更にフランスでは「聖母の手袋」と呼ばれているそうで、ところによりいろいろなものに見立てられる面白い花ではあります。日本に自生するのはヤマオダマキとミヤマオダマキの2種類で、主に山地から高山に分布しています。

薪割るやみやまをだまき萌ゆる辺に
  ~木村蕪城(1913-2004)『一位』

  にほんブログ村 ポエムブログ 短歌へ にほんブログ村
d ^_^;  よろしければ 1Day 1Click を↑
記事検索
🎼 I love music ♪

読んでくれたひと(感謝)
  • 今日:
  • 昨日:
  • 累計:

過去記事すべて見られます▼
📖【飛鳥・藤原京の物語】


  • ライブドアブログ