万葉歳時記 一日一葉

「万葉集」から1300年の時を超えた現代短歌・俳句まで、
昔と今を結ぶ日本人のこころの歌を歳時記にしました。

雲

#5111 秋はただ今宵一夜の名なりけり同じ雲居に月はすめども

令和8年9月25日(金) 【旧 8月15日 仏滅】 秋分・雷乃収声

秋はただ今宵一夜の名なりけり同じ雲居に月はすめども
  ~西行(1118-1190)「御裳濯河歌合」

秋というのはただ今宵一夜だけの名としてふさわしいのだ。同じ夜空に月はいつも澄(住)んではいるが。

 今日は旧暦8月15日、すなわち「中秋の名月」が見られる日です。『万葉集』にも月を詠んだ歌はたくさん詠まれていますが、中秋の名月を対象にした「お月見」の慣習はまだありませんでした。

260925_秋はただ今宵一夜の名なりけり
Photo:KUBOTAYA

 十五夜の観月が特別のものとされたのは大陸から貞観年間(9世紀中頃)に伝わってからとされています。伊勢神宮内宮に奉納された「御裳濯河歌合《みもすそがわうたあわせ》」は西行自身が自作の歌を左右に並べて36番の対戦形式にした歌集で、勝敗の依頼を藤原俊成に託しています。冒頭の歌について俊成は「十五夜の月を賛美するあまりに他日の秋の月を捨てるのはどうか」という理由で負けとしています。確かに今夜でなくても、あるいは満月ではなくても、澄み切った夜空の月は美しいものですね。

盗人の首領歌よむけふの月
  ~与謝蕪村(1716-1784)

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#5101 梯立の倉椅山に立てる白雲見まく欲り 我がするなへに立てる白雲

令和8年9月15日(火) 【旧 8月5日 赤口】 白露・鶺鴒鳴

梯立の倉椅山に立てる白雲見まく欲り 我がするなへに立てる白雲
  ~柿本人麻呂 『万葉集』 巻7-1282 雑歌

橋立の倉橋山に立つ白雲に逢いたいと、私が思ったその気持ちに寄り添うように白雲が湧いてきたぞ。

 5・7・7・5・7・7の旋頭歌《せどうか》の形式で詠まれています。倉橋山は奈良県桜井市の音羽山。万葉集に詠まれる「白雲」はしばしば人の面影を暗示する言葉として使われています。

260915_梯立の倉椅山に立てる白雲
Photo:高積雲(ひつじ雲) ~そらくら

 季節が夏から秋へと移り変わると、空に浮かぶ雲も全く変わった表情を見せてくれます。代表的な秋の雲といえば、ひつじ雲。正式には「高積雲」と言いますが、名前に反して比較的低いところに浮かんでいます。もっと高いところには刷毛で書いたように流れる筋雲とも呼ばれる「巻雲」。また、さざ波のような模様を描く「巻積雲」はうろこ雲、あるいはいわし雲とも呼ばれます。夏に見るマッチョな積乱雲(入道雲)と比べていかにも秋らしい涼やかな青空を演出してくれます。

鰯雲仰ぎ二三歩よろめけり
  ~能村登四郎(1911-2001)

260915_鰯雲仰ぎ二三歩よろめけり
Photo:巻雲(すじ雲)と 巻積雲(いわし雲) ~そらくら

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#5083 雲去ればもののかげなくうす赤き夕日の山に秋風ぞ吹く

令和8年8月28日(金) 【旧 7月16日 仏滅】 処暑・天地始粛

牛部屋に蚊の声闇《くら》き残暑哉
  ~松尾芭蕉(1644-1694)

 芭蕉晩年の作ですが、実はこの句の初案では結句を「秋の風」としていたそうです。しかし実際の肌感覚ではあまり秋らしい涼しさを感じられなかったのか「残暑哉」に変更したとか。

260828_牛部屋に蚊の声闇き残暑哉
Photo:縁側の夜 ~PHOTOHITO(横波さん)

 今日は七十二候の第41候「天地始粛(てんちはじめてさむし)。空も大地も暑さがようやくおさまり始める頃で二十四節気「処暑」の次候にあたります。「粛」はしずまるという意味ですが、実際にはこの時期になってもまだまだ30度を越える真夏日が続いています。近年は春や秋がめっきり短くなってきたと感じますが、気象庁の予報でも今年は秋の歩みがゆっくりとなり、気温も高めになりそうだとされています。これもまた秋風というよりもエルニーニョ現象によるものだとか。本当の秋風が待ち遠しい今日このごろです。

雲去ればもののかげなくうす赤き夕日の山に秋風ぞ吹く
  ~若山牧水(1885-1928)『独り歌へる』

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#5077 からすうりのレースの花がしゆつとひらきこんなにしづか地上の時間

令和8年8月22日(土) 【旧 7月10日 仏滅】 立秋・蒙霧升降

からすうりのレースの花がしゆつとひらき こんなにしづか地上の時間
  ~日高堯子(1945-)『玉虫草子』

260822_からすうりのレースの花がしゆつとひらき
Photo:夜咲くカラスウリの花 ~photoAC(wetwingさん)

 烏瓜《カラスウリ》はつる性の多年生草本で4月から6月にかけて発芽し、7月から9月に花を咲かせます。この花が咲くのは夕方頃、葉の付け根に白い花弁の先がレース状になっているのが特徴的で、最近多くの写真投稿サイトで見られるようになりました。赤い果実を付けるのは10月から11月。日本各地に自生していますが原産地の中国では果実・種子・塊根ともに生薬として利用されているそうです。

烏瓜あかねの雲の落し子か
  ~鷹羽狩行(1930-2024)

260822_烏瓜あかねの雲の落し子か
Photo:真っ赤に熟したカラスウリ ~Teishoin's Digital Photo Log

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#5050 残塁の数を数えて甲子園ため息ふかく生ビール呑む

令和8年7月26日(日) 【旧 6月13日 赤口】 大暑・桐始結花

夏雲の上に夏雲投手戦
  ~八木忠栄(1941-)

 プロ野球ペナントレースは今日の試合をもって一旦休憩。オールスターゲームを挟んで後半戦に突入です。パ・リーグはソフトバンクがリード、セ・リーグは阪神vs巨人の首位争いで折り返します。ここで我が阪神タイガースに関するとんでもないプロ野球記録をご紹介。私もまだ生まれていない今から80年前、1946年の今日7月26日に西宮球場で行われた大阪タイガースvsパシフィック戦は何と試合時間がたったの55分。タイガースの先発渡邉誠太郎とパシフィック先発の湯浅芳彰のテンポの好投と両打線の早打ちもあって1:0でタイガースの勝利でした。

260726_残塁の数を数えて甲子園
Photo:1992年9月11日 プロ野球最長試合 ゲームセットの瞬間 ~サンスポ

 逆にプロ野球史上最長試合も、阪神タイガースvsヤクルトスワローズの6時間26分。こちらは1992年9月11日なので、私もテレビ観戦をしていました。阪神八木裕の打球がホームランかエンタイトルツーベースかを巡って阪神中村監督とヤクルト野村監督の猛抗議合戦。長い中断を経て結局延長15回引き分けとなっています。試合終了は日付が変わった午前0時26分。タイガースは今も昔も球界のお騒がせ球団であり続けています。

残塁の数を数えて甲子園ため息ふかく生ビール呑む
  ~池松舞 『野球短歌』

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