万葉歳時記 一日一葉

「万葉集」から1300年の時を超えた現代短歌・俳句まで、
昔と今を結ぶ日本人のこころの歌を歳時記にしました。

愛媛

#5067 蓮の葉やみそ萩ぬらし雨すぎて銀河ながれぬ草市の上に

令和8年8月12日(水) 【旧 6月30日 大安】 立秋・涼風至

蓮の葉やみそ萩ぬらし雨すぎて銀河ながれぬ草市の上に
  ~金子薫園(1876-1951)『わがおもひ』


 「草市」とは7月12日の夜から翌日にかけて、盂蘭盆の仏前に供える草花や飾り物などを売る市で、かつては旧暦のこの日に全国各地で行われていました。「盆市」とも呼ばれますが、そんな中で今も変わらず賑やかに開催されているのは「もんじゃ」で有名な東京下町の「月島草市」。商店街に屋台や縁日が集まり、歩くだけでも季節感を味わえるとか。私もかつては東京に度々仕事で出かけていましたが、さすがにお盆休みに出張はありませんでした。東京下町の夏の風情もぜひ味わってみたかった。

四足の瓜も茄子も草の市
  ~正岡子規(1867-1902)

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#5052 霍公鳥いたくな鳴きそ独り居て寐の寝らえぬに聞けば苦しも

令和8年7月28日(火) 【旧 6月15日 友引】 大暑・土潤溽暑

霍公鳥いたくな鳴きそ独り居て寐《い》の寝らえぬに聞けば苦しも
  ~大伴坂上郎女(700-150)『万葉集』 巻8-1484 雑歌

霍公鳥よそんなにひどく鳴かないで。ひとり寂しく眠れないときに、鳴き声を聞くともっと辛くなるでしょう。

 これは夏の雑歌。坂上郎女《さかのうえのいらつめ》は人恋しさで眠れなかったと言っていますが、夏の夜の寝苦しさもあるのではと思ってしまいます。なぜかはわかりませんが、昔の人はほとんど和歌の中に夏の暑さに対する愚痴を詠んでいません。「暑い暑い」と挨拶のように口にする現代人と違うのは近年の温暖化だけではないのかもしれません。

260728_夏風邪はなかなか老に重かりき
Photo:風鈴提灯「えん」~鈴木茂兵衛商店

 ということで、今日は七十二候の第35候「土潤溽暑(つちうるおうてむしあつし)」。土が湿って蒸暑くなるという意味で、二十四節気「大暑」の次候にあたります。いわゆる溽暑《じょくしょ》というと昼間の炎天下というより、寝ている間の厄介な蒸し暑さのほうが身体に応えます。実際睡眠中の熱中症というのもけっこうあるのでエアコンをタイマーで切るのは危険。しかしエアコンもかけすぎると夏風邪で体調を悪くするので温度の調節が難しいものです。

夏風邪はなかなか老に重かりき
  ~高浜虚子(1874-1959)

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#4999 あしひきの山にも野にもみ狩人猟矢手挟み騒きたり見ゆ

令和8年6月5日(金) 【旧 4月20日 大安】 小満・麦秋至

狩人の鐵砲見ゆる薄かな
  ~正岡子規(1867-1902)

 ドイツ・ロマン派の作曲家で指揮者、ピアニストでもあるカール・マリア・フォン・ウェーバー(1786-1826)が亡くなったのは1826年6月5日。今日は没後200年に当たります。初めて指揮棒を用い、オーケストラの楽器配置を現在に近い形に整えた人物としても知られています。

260605_狩人の鐵砲見ゆる薄かな
Photo:ドレスデン劇場広場にあるウェーバーの銅像

 多くの作品から彼の代表作を一つだけ挙げれば、やはり歌劇『魔弾の射手』でしょうか。「序曲」の中で演奏されるホルンの和音が奏でるメロディは、佐々木信綱が明治43年に日本語の歌詞を付けて「秋の夜半」という中学唱歌となっています。また劇中の「狩人の合唱」もよく知られています。とは言え、私がオペラを全編通して鑑賞できたのは昨年11月に放送されたNHKBSのプレミアムシアターでした。悪魔と取引した狩人のお話ですが最後はハッピーエンド。ということで、ウェーバー没後200年の今日は『万葉集』から狩人を詠んだ山部赤人の歌を探してきました。

あしひきの山にも野にもみ狩人猟矢手挟み騒きたり見ゆ
  ~山部赤人(700-736)『万葉集』 巻6-0927

山にも野にも天皇の狩に従う人たちが、獲物をねらう矢を携えて盛んに行き交っているのが見えるよ。


Youtube:歌劇『魔弾の射手』第三幕より「狩人の合唱」

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#4990 心ありてゑみもかくや志たわまし神のみ國の臣なればこそ

令和8年5月27日(水) 【旧 4月11日 友引】 小満・紅花栄

心ありてゑみもかくや志たわまし神のみ國の臣なればこそ
  ~小栗忠順(1827-1868)

心がこもっているから笑みもこのように浮かぶのであろう。神の御国の臣だからこそこのような気持ちになるのだ。

 幕末期の幕臣小栗忠順《おぐりただまさ》が官軍の理不尽な判断で斬首されたのは1868年5月27日(慶応4年閏4月4日)のことでした。

260527_心ありてゑみもかくや志たわまし
Photo:小栗忠順(中央)~Yokosuka Route Museum

 2027年のNHK大河ドラマ『逆賊の幕臣』の主人公は松坂桃李さんが演じる小栗忠順《おぐりただまさ》。この名前を聞いて「ネジ」とか「横須賀造船所」とかを連想した方はかなりの歴史ツウ。過去の大河ドラマでも『三姉妹』『竜馬がゆく』『勝海舟』『龍馬伝』『青天を衝け』の5作品に登場してますが、彼の功績を知る人は少ないかもしれません。今年の豊臣秀長もそうですが、NHKが戦国や幕末の英雄譚から歴史の脇役にスポットを当てはじめたのであれば結構なことです。勘定奉行であった彼の進言を元に整備された横須賀造船所に、正岡子規が後年立ち寄って詠んだ句がありました。

横須賀や只帆檣《ほばしら》の冬木立
  ~正岡子規(1867-1902)

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#4935 雪女消えひとつぶの星のこる村とはふるき火を隠す場所

令和8年4月2日(木) 【旧 2月15日 仏滅】 春分・雷乃発声

怪談に女まじりて春の宵
  ~正岡子規(1867-1902)

 先週最終回を迎えたNHK連続テレビ小説『ばけばけ』のモデルになった小泉八雲の最後の著書『Kwaidan(怪談)』は妻の節子から聞いた各地の民話を文学作品に昇華したもので、これがアメリカで刊行されたのは1904(明治37)年の今日4月2日でした。「耳無芳一の話」「むじな」「ろくろ首」「雪女」などは今では誰もが知っているお話ですが、ドラマでも描かれていたように出版当初のアメリカではベストセラーとはなりませんでした。

260402_怪談に女まじりて春の宵
Photo:『Kwaidan』初版本 ~日本の古本屋

 しかし、後にハーンの本は多くの知識人の間で注目されるようになり、詩人のW.B.イェイツ、小説家のE.M.フォスター、インド初代首相のネルー、ドイツの哲学者テオドール・アドルノなどはこの本を通じて日本に興味を持ち始めたことを告白しています。また、アインシュタインやチャップリンが日本を訪れたいと思ったきっかけはハーンの著書だったとインタビューで語っています。

雪女消えひとつぶの星のこる村とはふるき火を隠す場所
  ~鈴木加成太(1993-)『うすがみの銀河』

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